「セルフコントロール」と「メタ認知」

スリップ体験の状況

当校では、10年以上前から安全なドライバー育成過程を8つの工程に分けて教育目標を明確化してきました。

最終ゴールは、当校の教育理念であります「心の運転」を実践するドライバーを育てることです。

※「心の運転」とは、「他者配慮」ができる、「Give Way」の精神を実践する運転のことであると、私たちは定義づけています。

この工程のうち、ステップ7は『「セルフコントロール(メタ認知)ができる 自分は今どんな状態か…?」』がテーマです。

安全運転のための感情コントロール

Hondaの交通安全情報誌「The safety Japan」に、東北工業大学共通教育センターの小川和久教授が「ドライバー向け新教育プログラム 安全運転のための感情コントロール」を発表されています。

その要旨は以下の通りです。

・いくら運転技術が優れていても、運転中のネガティブな感情(焦り、怒り)によって行動が左右され、自ら危険な状態を作り出し、事故につながってしまうケースがある。

・「感情コントロール」とは、ネガティブな感情にどう向き合い、どのように自己コントロールして安全運転に結び付けていくかを心理学的に検証し、開発されたプログラムである。

・自分の心理特性を把握し、その効果的なコントロールの仕方を自分で発見し、安全な運転行動に結び付けていくための教育。

・イライラや焦り、怒りなどのネガティブな感情は、どうしても危険な運転を誘発し、事故要因の一つとなる。

・運転行動の階層的アプローチ

・自分に言い聞かせる言葉を見つけ出す。

 ①「自己理解」自分の感情特性に関する自己診断プロセス

 ②「対処法の学習」ネガティブな感情に支配されたとき、その感情から逃れるために自分に言い聞かせる言葉(セルフトーク)を探す。

・「静的な感情」

「カッとしやすい」「心配性」といった、その人の性格に由来する感情

 「動的な感情」

 ある状態に直面した時、自分の性格がその局面でどのように表れ、どんな行動を引き起こすかを支配する感情

 →訓練によってポジティブな方向に転換していける

・杓子定規にルールだけを変えても、感情的に受け入れられない人が多い。例えば、約束の時間に遅れそうなときなど頭では「良くない」と分かっていても、ついスピードを出しすぎてしまう。こうした感情面のコントロールができないと、本当の安全運転にはつながらない。

・グループ討議の効用

自分とは異なる他の同僚の受け止め方、解釈の仕方を知り、自分なりの対処法を導いていけば、本人も納得できる部分があり、実践につながる。

前提条件としての「メタ認知」

「安全運転のための感情コントロール」をするためには、その前提としてネガティブな感情(焦り、怒り)に支配されている自分をもう一人の冷静な自分が気づく必要があります。

これは言うは易く、実践するのは難しい。ある程度のトレーニングと経験を通して「もう一人の自分」を育てていく必要があります。

企業研修における当校の事例紹介

「車両事故再発防止研修」を長年実施していますと、よく「その日は忙しかった」という振り返りの言葉が出てきます。その背景には、休日出勤であったり、業務量であったり、支店内の人間関係などに起因するネガティブな感情があります。

そのネガティブな感情を運転適性検査結果等から丁寧にカウンセリングしていきながら、「対処法」としてセルフトークを探っていきます。

セルフトークの一例を紹介します。

1約束の時間に遅れそうになった場合

「諦める」(当校の江川指導員提唱)

→事情を事務所へ即連絡する

2急に割り込まれた場合

「きっとあの人の家族が今危篤状態なのだろう。先に行かせてあげよう。」

このようなセルフトークをアドバイスしながら、最終的には本人が自己決定し、実践していくことになります。

これから取り組む課題

最後に、これから取り組むべき課題についてまとめておきたいと思います。

1「メタ認知」の具体的な訓練法

2「セルフトーク」の類型化

3運転適性検査結果を解説するだけでなく、対処法(「メタ認知」→「セルフトーク」→「具体的な運転行動等」)まで指導できるインストラクターの養成

当校が教育目標とする『「心の運転」無事故・無違反ドライバーの要件』

ステップ7「セルフコントロール」(メタ認知)ができる

これが具体的に実践できる教育手法をさらに深化させ、初心運転者教育や企業研修で成果が出せるよう、これからも取り組んでいきます。

備南自動車学校代表 井上道信

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